ブログ・エッセイ
京都第一日赤病院 繁田正子 月刊仕事表 月刊体調表 日本禁煙学会 繁田正子賞
もう二十数年ほど前になるが、京都第一日赤病院で人間ドックを受け始めた。気管支の具合が悪く、風邪にかかると熱が下がっても、なかなか咳がとれない。またご多分にもれず、腰痛もあって、完調ということがまずない。肺に陰があったりして、時に再検査やフォローアップを受けてきた。
その頃のドックの内科診察は繁田正子という先生で、そのフォローアップも繁田先生が担当してくださった。受診者側のわたしから言うのもなんだが、ウマが合うというか、波長がよく合った気がする。
そんな、体調があまりすぐれないとき、少し考えを巡らせて、わたしは「月刊仕事表」というのを作成してみた。そしてそれを繁田先生に見せることにしたのだった。
「月刊仕事表」というのは、一か月をA4一枚に、毎日記入していく日ごとの覚えである。項目は、「きょうは何の日」と、日々の自分の仕事を書き込み、ストレスやまた楽しみごと、運動や飲んだお酒の量、睡眠時間などである。夜中にトイレで起きた回数というのも追加した。
「仕事」のなかでは、タスクというか強いられてやる仕事と、多少のストレスが伴っても自分から進んでやる仕事、例えば資料調べとか原稿書きとかの自発的な仕事とを区分して作成した。そしてその日の体調を、パーセンテージで確認しようというものだった。
繁田先生に見せると、「お、いいですね、よくできている、いっしょに開発して売り出しましょうか」と笑いながら応じてくれた。もちろん、お世辞と患者への励ましであったわけだが、わたしとしては何とはなしにうれしい気分だった。
この「仕事表」の特徴は、日々を項目ごとに区分けし、自分で確認していくこと、仕事については、義務の仕事と自発的なものとを区分したこと、さいごに体調をパーセンテージで自己診断する、というものであり、自分としては、創意工夫もあり、画期的なものではないかと、ひそかに思っていた。自覚する、自省する、わが身を対象化するという必要条件も含まれている。
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歳を重ねて今日に至った。そして数日前、ふとこの「月刊仕事表」のことを思い出した。そしてそれを、今の自分にふさわしい「月刊仕事表」、いやいや、「月刊体調表」とでもいう老年向きのものに作り替えてみたらどうかと考えてみたのである。
定年をとっくに過ぎているから、いわゆる仕事は自発的なものしかないが、一日のうちに、例えば原稿を書くとか、図書館などに調べものに出るとか、そうした仕事をこなした日には、いささかの達成感もあるから、あえて項目に入れよう。
そんなことを考えながら、老年用「月刊体調表」の項目を決めていった。そして、体温・血圧、仕事、EXERCIZE(散歩や家庭菜園など)、XERCIZE(家の中でのヨガなど)、酒量、睡眠、さらにその日の体調の自己診断をパーセンテージで評価する。この自己診断・自己評価は欠かせない。これがこの評価表の肝心な要であるからだ。
考えてみに、この「月刊体調表」は、壮年の頃の「月刊仕事表」と比べると、さびしく切ないものではある。だが仕方ない。歳をとったのだ。だが、ここでも多少の志を込めて、自身を対象化し客体化して考えるための、体調自己診断項目を盛り込んだ。自分で自分を評価するいう「作法」は失いたくない。そしてそれは、老年のわたしたちにとって、も結構大事なことなんだろうなと思う。
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その繁田正子先生は、いつのころか、京都第一日赤病院を辞められた。そんなことからお会いする機会もなくなってしまったのだが、何年か前に、風の便りで、亡くなったとお聞きした。
あらためて今回、インターネットで検索してみると、わたしが診てもらったその後の2003年京都第一赤十字病院健診部長、2007年京都府立医科大学地域保健医療疫学教室学内講師、2011年准教授、その後は京都府南丹保健所長を勤められたが、2014年3月6日に亡くなられていた。
これは、日本禁煙学会のホームページのなかの、「調査・研究・事業助成」・ 繁田正子賞」の「繁田正子先生の生涯」という記事だ。繁田正子賞というのは、日本禁煙学会が、「喫煙防止教育や後進の育成に情熱を捧げられた故繁田正子先生の遺徳を偲」んで、2017年5月に設立された賞であるとのことだ。
繁田正子先生の履歴をもうすこし書いておく。繁田先生は1956年4月3日北海道北見市の生まれ、滋賀県彦根東高校を卒業し京都府立医科大学へ、卒業後は、松下記念病院、京都府立医科大学研究生、修練医、明治鍼灸大学内科講師など歴任しておられる。呼吸器外来及び病棟の担当。マサチューセッツ州クインシガモンド大学への留学を経て京都府立医科大学研修員、1995年京都第一赤十字病院健診部医長。
こうしてみると、わたしが繁田先生に診てもらった時期は、医長さんの時期だったことになる。「月刊仕事表」を、「月刊体調表」を作り替えるときに、思い出して繁田先生のことを調べてみたのだが、その事績も知ることができた。
いい先生に診てもらったんだなと、あらためて感じ入った次第である。
附記:
繁田正子先生については、栗岡成人「繁田正子先生の逝去を悼む」『日本禁煙学会雑誌』2014年5月、栗岡成人・青木篤子「故繁田正子先生(マーちゃん)の思い出ーお母さまと妹さんのお話から」『タバコフリー京都』、など、多くの心温まる追悼文がある。ご人徳だなとあらためて思い起こされる。 (2020年4月19日記)
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