ブログ・エッセイ
ないないないない、自転車の鍵
「ないないないない」の小さいスコップも、黄色いはさみも、畑からいまだに出てこない。
そして数日前、自転車で畑に出かけた。作業を終えて、家の裏のひさしのある軒下に自転車を入れて、収穫物のジャガイモの袋と、いつも持っていくリュックと、携帯ラジオと、ペットボトルと帰りに買ったマテアのパンを持って、「そうそう」と、しっかり者高齢者のわたしは、念のためにと自転車のキーもかけて、玄関に向かう。
この3月玄関横に建てたテラスルームの床下が、わたしの畑くつの収納場所なので、玄関に座り込んで、汚れたワークマン作業靴を脱いで、やれやれ、お疲れさまと、ひとりごちて家に入る。
はたけの作業着などは、このテラスハウスが定位置だ。リュックと帽子はここにぶら下げ、ワークマン作業着は抜いてハンガーにかけて物干し竿の端っこに吊るす。ワークマンズボンは、ポケットを確認してからハンガーにかける。よごれた靴下もここで脱いで、やれお疲れと、もう一度。しっかり者高齢者はあくまで万全を期す。
収穫物のジャガイモの袋は階段下の箱の中に、他の野菜は洗わないといけないので台所の新聞の上に。そして、財布や携帯、家の鍵などを所定の引出に入れて、と。ここで気づく。
あれ、自転車の鍵は?おかしいな、確かに抜いたのだが…。もう一度自転車を確認、確かに抜いている。しっかり者の高齢者を自認しているわたしは、いささか不安になってくる。
ワークマンズボンや上着などをもう一度チェックしてみる。ないないないない、今度は自転車の鍵がない。だが自転車には掛けたし、導線も二度確認した。やっぱりない。
奥方に言っても、鍵はかけたんでしょ?じゃどこからか出て来るわよ、とり合ってくれない。仕方ない、気持ちがすっきりしないがしょうがない。2,3日後に自転車で出かける用事があったので、その時はやむなくスペアのキーを使った。
それから数日して、奥方が、「自転車の鍵はどうしたの」という。ないままだと答えると、「ほら」と得意満面、鍵を顔の前に突き出して来るではないか。
「おおどこにあった?」と聞くと、「どこにあったと思う?」となかなか答えない。そして、ついに、ジャガイモの袋の中にあったわよ、とあかす。
そうか、あのときいくつか荷物を持って玄関に向かったから、その時、自転車の鍵も指から袋にこぼれ落ちたんだな。「でもよかった、袋の中で。ナイスキャッチだ」。そう負け惜しみを言うと、どこがナイスよ、何がキャッチよ、とにべもない。
まあ仕方ない、仰せの通りだ。でも出てきてよかった。
それにしても、畑のスコップとはさみ、どこへ行っちゃったんでしょうねえ。 2024年6月20日 記
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